穏やかな日差しに木々の蕾がほころび始め、季節は移り変わろうとしています。春の足音が聞こえるこのよき日に、ご来賓の皆様、保護者の方々をお迎えして、第7回看護専攻科修了証書授与式を挙行できますことは大きな喜びです。卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。保護者の皆様、卒業という節目の日を迎えられたことを、心よりお祝い申し上げます。
本校での全ての教育課程が修了し、新たな一歩を踏み出す日がやってまいりました。5年間はとても長い歳月であったと思います。看護科の謳い文句は「看護師への一本道」。「一本道」であるがゆえの苦悩がたくさんあったことと思います。
2年生の戴帽式、前向きな決意で溢れているだろうと思って読み始めた皆さんの感想に驚きました。この中にいるお二人のものです。
「病院実習に対して、負のイメージしか持てないことが悩みです。最初の実習では、1週間前から不安で眠れませんでした。病院では看護師さんに聞かれた内容が全くわからなくて自信を失いました。この先に続いていく実習が怖いです」
「求められる学習量や、レポートの大変さに押しつぶされそうになり、時々、投げ出したくなります。中3で将来を決めて良かったのかなと思うことがあります。親が働いたお金で学校に来させてもらっているし、祖父母も応援してくれているのにみんなの期待を裏切れない、そんな思いで頑張っています」
たくさんの人が本音を綴り、看護師になることそのものを迷っている人もいました。加えて、100年に一度のパンデミックは、看護学生をさらに厳しい状況に追い込みました。突然の実習変更、コロナに罹患してはならないと気を張り続けなければならない日常、ご家族の皆さまも大変だったことと思います。
国家試験後、帰り道で一緒になったある人は「看護師を諦めかけた回数は5回や6回じゃないです。友達や先生の支えがなかったら続いていなかったと思います」と語っていました。看護師への道の険しさが分かります。困難を乗り越え、今日まで歩んで来られた皆さんに、深い敬意を表し、心からの拍手を送ります。
さて、高校3年間、皆さん方は、応援団や文化祭などの行事、そして放課後学習会などに本当に積極的に参加し、学び合い支え合うことを大切にされてきました。それが専攻科に進級してどのように花開くか、楽しみにしていました。統括監の中川先生にお聞きしたことがあります。「4年生になった生徒達はどうですか?」 返ってきた答えは「欠点者がかつてなく多くて、大変なんです。特別試験の面接がドッとあると思いますので宜しくお願いします」でした。実際に校長になって初めて二ケタの面接をさせて頂きました(笑)。
「3年間の蓄積はどこに行ったのだろう?」と思っていましたところ、最も困難な国家試験の学習において、見事に花開かせてくれました。学び合い支え合いながら学習を続ける姿は、専攻科の歴史の中で群を抜いていました。教室のホワイトボードに「不安は勉強でしか解決できへん!」の文字が大きく書かれ、実に明るい雰囲気で学ばれていました。ある人は「今が一番勉強が楽しい」と語り、別の人は「成績が上がらなくて心が折れかけていた時、友達の声かけがあったから頑張れた」と話していました。みんなで励まし合い、困難を乗り越えていく様子を私は目の当たりにしました。
国家試験後に行われた「卒業研究発表会」。自分が担当した患者の看護に焦点を当て、文献も用いて自己分析を行なう報告は、どれも素晴らしいものでした。「私は叫んでいる患者に恐怖心を抱いてしまって、その時気持ちを理解しようとできませんでした」「自分の知識のなさが精神疾患に対するスティグマにつながっていることに気付きました」「私も同じ失敗をしたことがあります」「私ならその場面でこう対応したと思います」…。「私」という言葉が何度出てきたでしょう。自らの看護を振り返り、誠実に学ぶ姿勢に大きな感銘を受けました。
「治療できない患者はいるが看護できない患者はいない」と言われます。看護の原点は知識技術ではなく、病気を背負い不安と孤独の闇の中にいる人と「共に居ること」「ともしび」であることです。命の重みを受け止め、心に寄り添える看護師として医療の第一線で活躍されることを期待します。
今、世界を見渡しますと、戦争によって命が無情に奪われていく現実に心が痛みます。パレスチナ・ガザ地区では、病院までもが攻撃対象とされ、医療が崩壊しています。医薬品どころか、ガーゼさえも底をつき、血まみれのガーゼを絞り、滅菌して別の患者に使用しているといいます。
どうすれば、戦争を止めることができるか。どうすれば、人々が互いに支え合い「共に生きる社会」を築くことができるのか。どうすれば、人が人として尊重され、差別されずに幸せに生きることができるのか・・・、生命と向き合う看護師として、そして「平和と民主主義の実現を願って努力する人間」を育てることを建学の精神に掲げる学園の卒業生として、考えていってください。
いよいよお別れの時が近づいて来ました。長い間一緒に歩んできた皆さんが、明日からいなくなることは寂しいです。この先、何か困ったことがあれば大阪暁光高校を訪ねて来てください。「今、仕事しんどいねん・・・」と、遠慮なく弱音を吐きに来てください。この学校はいつまでもあなたの母校です。みなさんの前途が明るく、幸多からんことを祈ります。
保護者の皆様、今日まで本当にありがとうございました。国家試験に向けて、炊き出しまで行って頂いたその姿は、生徒たちの大きな励みとなりました。5年間至らぬ点も多々あったと存じますが、本校教育活動に絶大なるご理解とご協力をいただきましたことに、心より感謝申し上げます。
最後になりますが、ご来賓の皆様、本日はご多用の中、ご臨席賜りまして有り難うございます。まだまだ未熟な青年たちです。これからも温かく見守り、ご指導ご鞭撻を賜りますことをお願い申し上げます。
みなさんと共に過ごした日々は、私達にとってもかけがえのない時間でした。揺れながらも、看護師になる「幹」を太く大きくしてきた皆さんから、私たちは、希望の灯りをもらいました。
みなさん、ありがとう! そして、お元気で!!
2024年3月11日
大阪暁光高等学校 校長 谷山 全