穏やかな日差しに木々の蕾がほころび始め、季節は移り変わろうとしています。春の足音が聞こえるこのよき日に、ご来賓の方々、保護者の皆様をお迎えして、第6回看護専攻科修了証書授与式を挙行できますことは大きな喜びです。卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。保護者の皆様、卒業という節目の日を迎えられたことを、心からお祝い申し上げます。
本日、全ての教育課程が修了しました。今、手にされた修了証書は、5年間のあなたがたの努力の証です。15歳とういう年齢で看護師になる夢を携えて入学し、今日の日を迎えるまでには、恐らく、幾重もの試練があったことでしょう。「自分は看護師に向いているのだろうか」「この先こんな大変な実習がどれだけ続くのだろうか」・・・迷い、挫けそうになったこともあったと思います。
コロナが始まってからの学びは苦しかったと思います。実習先から受け入れを断られることもありました。いつ決まるかわからない中で続けなければならない体調管理。実習先が病院から施設に代わることや、実習内容が急きょ変更されることもありました。こんな中で初志を貫かれ、今日まで歩んで来られたみなさんに深い敬意を表し、心からの拍手を送ります。
先日聞かせて頂いた「卒業研究発表会」。私はみなさんの5年間の成長を実感しました。
Aさんは次のような報告をされました。「歯ブラシしましょう」と口腔ケアを促したところ、「いいです。あっちに行ってください!」と言われた上に、担当を外してほしいと申し出しされ、別の患者を受け持つことになってしまったと。その傷つきはどれほどのものだったでしょう。彼女は報告にあたり、学術書に学び自らの看護を振り返っていました。
・心肺機能の低下があり食事後の酸素消費量が増加し、その器質的苦痛から口腔ケアを拒否したのではないか。・残存歯が2本しかなく、うがいで済ませていた生活習慣の変更に戸惑いがあったのではないか。・テレビを見たい欲求を遮られることへの苛立ちがあったのではないか。・認知症の観念性失行で、出来ない姿を見られることに抵抗があったのではないか。・「口腔ケアをすると気持ちいいですよ」ではなく「しないとキレイになりませんよ」とネガティブにアプローチしたことが良くなかったのではないか…。
現実を受け止め真摯に向き合う姿勢に心を打たれました。
会場からBさんが手を挙げ発言しました。「私も準備していた計画を拒否されたことがあります。Aさんの報告を聞いて、患者の性格のせいにして苦手意識を持ち、その人に拒否されないことをまず考えて、勝手に援助範囲を狭めていた自分の過ちに気付きました」と。集団で学び合あうことによって、看護に対する見方、考え方が広がっていってく姿を目の当たりにしました。どの報告も素晴らしいものでした。
コロナ禍で、看護師の存在がより一層重要になっています。昨年、私が参加した研究会での看護学の先生の言葉が印象に残っています。「治療できない患者はいるが、看護できない患者はいない」。看護の原点は、知識や技術ではなく「共に居ること」。病気を背負い孤独の闇の中にいる人の“ともしび”であること。私はコロナ病棟で親を亡くしましたで言葉の意味がよくわかります。
出口が近づいているとはいえ、パンデミックによる医療現場の苦難はもうしばらく続くでしょう。命の重みを受け止め、患者とその家族の心に寄り添える看護師として、医療の第一線で活躍されることを期待します。
もう1つみなさんに期待することがあります。平和と民主主義の問題に、関心を寄せてほしいということです。ロシアの侵攻から1年が経ったウクライナの昨日の最低気温は-3℃でした。この冬は、人々が電気を使えないように発電所が攻撃されました。オペ中に停電が起こり、心臓の手術が非常用バッテリーで行なわれています。77年前、多大な犠牲を払って人類が辿り着いた平和の原則。それが蹂躙されています。想像力をかきたててください。映像の向こうの悲しみを想像してみてください。命を守る看護師に従事されるみなさん、平和で民主的な社会の実現を願う人間を育てる教育理念を持つ学園の卒業生として、自分に何ができるか、共に考えていきましょう。
いよいよお別れの時が近づいて来ました。この先、何か困ったことがあれば大阪暁光高校を訪ねて来てください。「先生、今、職場でしんどいねん・・・」と、遠慮なく弱音を吐きに来てください。この学校はいつまでもあなたの母校です。みなさんの前途が明るく幸多からんことを祈ります。
保護者の皆様、5年間、至らぬ点も多々あったと存じますが、本校教育活動に絶大なるご理解とご協力をいただきましたことに、心より感謝申し上げます。ご来賓の皆様、本日はご多用の中、ご臨席賜りまして有り難うございます。これからも卒業生を温かく見守り、引き続きご指導ご鞭撻を頂きますことを お願い申し上げまして、式辞の言葉と致します。
みなさんと共に過ごした5年間は、私達にとってもかけがえのない時間でした。先生達を代表してお礼を言います。
ありがとう。そして、お元気で!
2023年3月10日
大阪暁光高等学校 校長 谷山 全