校庭の木々の蕾がほころび始め、春の息吹が感じられるこのよき日に、第71回 卒業証書授与式を挙行できますことは、大きな喜びです。ただ今、名前を読み上げた268名の卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。保護者の皆様、卒業という節目の日を迎えられたことを 心からお祝い申し上げます。
入学からマスクが自由になることなく卒業の日を迎えることになりました。やむを得なかったとは言え、苦しい高校生活を負わせてしまったことを申し訳なく思います。その中でも、不自由にたえ、頑張りぬいてこられた皆さんに心からの拍手を送りたい思いです。
3年前、「入学祝い」としてお渡した手紙があります。書き出しは「あじさいの花が梅雨に映える季節、今日、ようやくクラスの初顔合わせができます」でした。課題だけが送られてきた高校生活のスタートはきっと不安だったことでしょう。3学期のHRプリントに「コロナがない時はどんな風だったんだろう?これから高校に入ってくる人たちを羨やましく思う」と書いた生徒がいます。
あなたたちは、まさに「コロナ世代」です。学園の72年の歴史の中で初めて入学式を挙行できず、クラスのみんなと合えたのは6月中旬。1年の体育大会は中止、2年の修学旅行も中止。体育も音楽も実験も実習もすべて制限を加えました。しかし、学ぶ機会や友達と過ごす大切な時間を奪われても、皆さんは仲間と支え合いながら乗り越えてきました。
中学時代、学校に行かなければならない朝を迎えるのが怖くて眠りに付けなかった人、「友達なんて二度と作らない」と傷を負って入学してきた人、幼い姪の面倒を見ながら学校生活を続けた人、アルバイトを掛け持ちしながら学業と両立させてきた人、3年間は決して平坦な道程ではなかったと思います。6月の体育大会応援団。団長、副団長の頑張りはもちろんですが、日頃、ゲームを通してしか友達と関わっていない生徒が勇気を出して下級生にダンスを教える姿や、何かあるとすぐキレていた男子が最後まで投げ出さずに頑張り抜いた姿に大きな感動を覚えました。
保護者の皆様には、沢山のお力添えを頂きました。臨時休校では、出勤できなくなる方が生まれてしまうことを分かりながら苦渋の決断をさせていただきました。コロナ不況、物価高騰が暮らしを直撃する中、お子さまを支えてこられた苦労はいかばかりかと存じます。ご家庭での支えがなかったら今日の日を迎えることはできませんでした。
これから皆さんは、社会に船出をしていきます。皆さんを待ち受ける社会は複雑であり、解決しなければならない課題が山積されています。一方、時代は、多様性に向かって大きく動いています。「ジェンダー平等」や「性的少数者」に対する社会的理解はこの数年で大きく変わりました。10年前、20年前に学んだ「人権」は時代に合わせて常にアップデートしていく必要があります。
これは長崎原爆資料館の入り口のメッセージです。「核兵器、環境問題、新型コロナ…世界規模の問題に立ち向かう時に必要な根っこは同じ。自分が当事者だと自覚すること。人を思いやること。結末を想像すること。そして行動に移すこと」
「人間教育」を理念とする本校で大切にしてきたことと重なります。これから先、たくさんの理不尽な事に出会い、憤ることもあるでしょう。あなたの怒りを自分のためだけでなく、友達のために、そして見えない「弱者」のために、どうぞ使ってください。「生き抜く社会」から「生き合う社会」へ、卒業生のみなさんに期待します。
いよいよお別れの時が近づいて来ました。
コロナ禍では、私たち教職員は、初めて“生徒の居ない学校”を経験しました。それは、「学校が生徒と一緒に成長を紡ぐ場」であることに改めて気付かされた時間でもありました。「コロナに負けず、かけがえのない生徒の高校生活を守りたい!」そんな思いで歩みを進めてきました。思いが通じず、愁いに沈むことも有りましたが、268通りの成長は私たちの“宝物”です。
何か困ったことがあれば暁光高校を訪ねて来てください。そしていつものように職員室の入口から「先生…」と呼んでください。この学校はいつまでもあなたの母校です。
保護者の皆様、この3年間、至らぬ点も多々あったと存じますが、本校教育活動に絶大なるご理解とご協力を賜りましたことに、心より感謝申し上げます。ご来賓の皆様、本日はご多用の中、ご臨席賜りまして有り難うございます。これからも卒業生を温かく見守り、引き続きご指導ご鞭撻を頂きますことをお願い申し上げまして、式辞の言葉と致します。
あなた達と共に過ごした3年間は、私達にとってかけがえのない時間でした。みなさんの前途が、明るく幸多からんことを祈ります。
みなさん、お元気で!
2023年2月24日
大阪暁光高等学校 校長 谷山 全