校庭の木々の蕾がほころび始め、春の息吹が感じられるこのよき日に、第70回 卒業証書授与式を 挙行できますことは、大きな喜びです。ただ今、名前を読み上げた297名の卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。保護者の皆様、卒業という節目の日を迎えられたことを 心からお祝い申し上げます。
高校生活への期待と不安を胸に入学式に臨まれてから3年が経ちました。本日、すべての教育課程が終了します。めでたく卒業の日を迎えることができたのは、ひとえに皆さんが弛まぬ努力を積み重ねてきたからです。深い敬意を表し、心より称賛の拍手を送ります。
いよいよ高校生活の最後の日となりました。皆さんと一緒に歩みを進めてきた私たち教職員も 万感の思いでいます。それは、皆さんの卒業までの道のりが、決して平坦なものでなかったことを知っているからです。弟を毎日保育園に送りながら学校生活を続けた人、コロナで家計が厳しくなり、日々の生活に困窮する中、週5日のアルバイトと学業を両立させてきた人。中学時代に受けた心の傷に長く苦しんだ人。言葉で言い尽くせない困難を背負って歩んできた皆さんに、「3年間本当によく頑張ったね」と声をかけたいです。
思い返せば、皆さんの高校生活の3分の2は、新型コロナウイルスとのたたかいであったように思います。緊急事態宣言から始まった二年生、クラス全員が顔を合わせたのは梅雨に入った6月半ばでした。今までの「当たり前」が当たり前でなくなり、学校の景色は大きく変わりました。昨年度は体育大会も修学旅行も中止せざるを得ませんでした。「なんでなん」と悔しい思いをしたのは、きっと一度や二度ではなかったと思います。しかし、学ぶ機会や友達と過ごす大切な時間を奪われても、皆さんは、仲間と共に成長されてきました。
コロナ禍で学校の存在意義が問われています。2学期に実施したアンケートで保護者の方からこんなひと言を頂きました。「人とのよい出会いが子どもの変化を促し、自分で考えて行動し自信を付けていきました。成長のきっかけになる種を与えてもらえる場所でした」「入学してから子どもが色んな事に取り組むようになりました。一人では前に進めなかったところを皆さんによって成長させてもらったと思っています」 ここに答えが凝縮されていると思います。
皆さんの船出にあたり、どのようなメッセージを送ったらいいか悩みました。3日前、本校に来ていただいている臨床心理士の先生がある生徒におっしゃった「自分を振り返る作業は時に苦しみを伴うけれど、身近にいる支援者と一緒なら乗り越えられるから・・・」という言葉が私に響きました。人生の中で「強い意志」を持って生きようとしても、メダリストのようになれるのはほんの一握りです。多くの者は壁に当たり、挫折し、もがき苦しみながら生きています。みなさんには、「苦しい時は一人で抱え込まないで『助けて』と声をあげていいんだよ。助けを求めることは弱いことじゃない」というメッセージを送りたいです。
昨日、何人かの生徒が、貰いたての卒業アルバムを持って「ひとこと書いてください」と職員室にやってきました。私は「たった一度の人生だから自分の幸せのためだけに使うのはもったいない」と書きました。「今だけ、金だけ、自分だけ」と言われる経済システム、「自己責任」の名の下に人間をおろそかにする社会動向の中で、他者に生かされ他者を生かして生きる「利他共生」の思想を大切にしたいのです。
これから先、たくさんの理不尽な事に出会い、憤ることもあるでしょう。昨日も国際社会で大変な問題が起こりました。 あなたの怒りを自分のためだけでなく、友達のために、そして見えない「弱者」のために、どうぞ使ってください。「生き抜く社会」から「生き合う社会」へ、「人間教育」を謳う本校の卒業生みなさんに期待します。
いよいよお別れの時が来ました。この3年間、私たち教職員はみなさんの可能性を信じて伴走してきました。なかなか思いが通じず、愁いに沈むことも有りましたが、297通りの成長は私たちの“宝物”です。何か困ったことがあれば暁光高校を訪ねて来てください。そしていつものように職員室の入口から「先生…」と呼んでください。この学校はいつまでもあなたの母校です。みなさんの前途が、明るく幸多からんことを祈ります。
保護者の皆様には、立派に成長し学窓を巣立っていくお子様の姿に、喜びもひとしおのことと存じます。本来なら式場にご参列いただき、眼の前で生徒たちを祝福していただきたいところですが、リモートとなりましたことをお詫び申し上げます。この3年間、至らぬ点も多々あったと存じますが、本校の教育活動に絶大なるご理解とご協力を賜りましたことに、心より感謝を申し上げ、私の式辞といたします。
みなさんと共に過ごした3年間は、私達にとってもかけがえのない時間でした。ありがとう。そして、お元気で!
2022年2月25日
大阪暁光高等学校 校長 谷山 全