穏やかな日差しに木々の蕾がほころび始め、季節は移り変わろうとしています。春の足音が聞こえるこのよき日に、大阪議会議員様、中学学校長様、実習先看護部長様はじめ、たくさんのご来賓の皆さまをお迎えし、第8回看護専攻科修了証書授与式を挙行できますことは大きな喜びです。ただ今、名前を読み上げた58名の修了生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。保護者の皆様、卒業という大きな節目の日を迎えられたことを 心からお祝い申し上げます。
本日、5年間にわたる全ての教育課程が修了しました。先ほど授与した修了証書は、皆さん一人ひとりの5年間のたゆまぬ努力の証です。修了証書に生年月日が記されています。その日、あなたは生まれ、9年間の義務教育を経て、15歳という年齢で看護師になることを決意をし、この大阪暁光高校に入学しました。
看護学生にとっての5年間の学びがどれほど大変なものか、私たちは知っています。とりわけ、未曾有のウイルスに翻弄された3年間は、厳しかった思います。
入学式もなく分散登校から始まった高校生活。最後までマスクを外せないまま卒業の日を迎えました。臨地実習に向けては、厳しい体調管理を求めました。クラブ活動やアルバイトはもちろん、家族以外の会食も禁止。そんな細心の注意を払って臨んだにもかかわらず、実習先でクラスターが発生し、学内実習への変更を余儀なくされたこともありました。医療崩壊が深刻になる中、防護服に身を包み、感染リスクを背負って働く看護師の姿に不安を覚えた人もいたことでしょう。普通科の生徒を羨ましく思うことがあったかもしれません。「一本道」であるがゆえの苦しさが、数多く存在したことと思います。初志を貫き、試練を乗り越えて今日まで歩んでこられた皆さんに、深い敬意を表し、心からの拍手を送ります。
先日、皆さんの成長を実感する機会がありました。卒業研究発表と国家試験の激励会です。卒業研究発表では、自分自身の課題と向き合い、報告する姿に感銘を受けました。
誤嚥の心配があり「とろみ茶」しか飲めない患者さんから、「ネチネチしておいしくない。サイダーを飲みたい・・・」と言われ、「肺炎のリスクがあるのでお出しできないです」と告げたAさん。人生の終わりが近い患者さんの願いを叶えてあげたいという人としての思いと、看護学生としての責任の狭間で揺れ動きながら、看護の根本について突き詰めて考える姿がありました。
「トイレの後は手を洗いましょう」と、何度促しても手指消毒に応じない統合失調症の患者さんに対し、どう接するべきかを悩んだBさん。初対面の相手に警戒する病気の特性を十分理解せず、「統合失調症だから仕方がない」と先入観を持って対応てしまった自らの看護を真摯に省みる姿がありました。
発表会を通して会場からは『私も同じ失敗をしたことがあります』『私ならこう対応したと思います』など、自分と重ね合わせた発言がたくさん出されました。学び合うことで、看護に対する視点や考え方が広がっていく――そんな素晴らしい空間に、私は同席することができました。
国家試験の激励会では、担任の先生方のメッセージが印象的でした。エールを込めて熱唱された突然の岸先生の『私は最強』は圧巻でしたが、林先生の「学校では教員にあんなにキツイのに、病院では患者さんにこんなに優しいんだと驚かされました。あなたたちには素晴らしい力があります。きっといい看護師になれます・・・・」から始まったメッセージが心に残っています。
林先生に伺いました。着任当初は、皆さんの様子を見て「看護師としてこの子たち大丈夫だろうか?」と、本気で心配していたそうです。しかし、実習で一人ひとりにじっくりと関わる中で、鋭い視点や思考力、行動力に触れ、「この子たちすごい可能性を持っている」と感じたそうです。また、国家試験の学習で教え合いながらどんどん伸びていく姿も目の当たりにして、「私は、表面的な不出来にばかりに目をとられ、生徒の内側にある大切なものが見えていなかった。教師としての未熟さを教えられた」と反省されています。教員もまた、皆さんとともに成長してきました。
「治療できない患者はいるが、看護できない患者はいない」と言われます。看護の原点は、病気を抱え、不安や孤独の中にいる人に寄り添い、「共に居ること」、「ともしび」となることです。命の重みを受け止め、心に寄り添える看護師として医療の第一線で活躍されることを期待します。
そして、目の前の患者さんの命を守ることにとどまらず、平和が脅かされ、社会的に弱い立場の人々に容赦のない自己責任論が押し付けられるこの社会において、どうすれば人が人として尊重され、「共に生きる社会」を築くことができるのか、考え続けていってください。
いよいよお別れの時が近づいてきました。5年間共に過ごしてきたみなさんが、明日からいなくなってしまうと思うと寂しく感じます。この先、何か困ったことがあれば大阪暁光高校を訪ねて来てください。遠慮せず、「今、仕事しんどいねん・・・」と弱音を吐いてください。 この学校は、いつまでもあなたの母校です。みなさんの輝く未来に、幸多かれと祈ります。
保護者の皆様、今日まで本当にありがとうございました。国家試験に向けて、炊き出しまで行って頂いたその姿は、生徒たちの大きな励みとなりました。5年間至らぬ点も多々あったと存じますが、本校教育活動に絶大なるご理解とご協力をいただきましたことに、心より感謝申し上げます。
最後になりますが、ご来賓の皆様、本日はご多用の中、ご臨席賜りまして有り難うございます。まだまだ未熟な青年たちです。これからも温かく見守り、ご指導ご鞭撻を賜りますことをお願い申し上げます。
みなさんと共に過ごした日々は、私達にとってもかけがえのない時間でした。揺れながらも、看護師になる「幹」を太く大きく育んできた皆さんから、私たちは希望の灯りをもらいました。
みなさん、ありがとう!そして、お元気で!!
2025年3月11日
大阪暁光高等高校 校長 谷山 全