秋の訪れとともに、草木が色づき、命をつなぐ実りの季節がやってきました。このよき日に、ご来賓の皆様、そして保護者の皆様にご臨席賜り、第11回戴帽式を挙行できますことは大きな喜びです。保護者の皆様におかれましては「戴帽」という特別な日を迎え、感慨もひとしおと存じます。これから、患者さん一人ひとりと深く関わっていく戴帽生の皆さんに、一言励ましの言葉を贈ります。
みなさんの前にナイチンゲール像があります。戴帽式は、クリミア戦争で傷ついた兵士をロウソクの明かりを頼りに身分の別なく支え続けたフローレンス・ナイチンゲールの精神を受け継ぎ、看護学生としての自らを振り返る場です。ただいま代表者によって朗読された「決意」はそれに相応しいもので感動しました。 新たな決意をもって臨地実習に臨み、これからたくさんの患者さんに出会うであろうみなさんに、専攻科の2人の先輩の話を紹介します。
一人目は、看護師になる目的が全く変わったAさんの話です。Aさんは、早く家を出て自立をしたいという思いから看護科を選び、4年間を過ごしてきました。
専攻科2回生での実習、彼女は糖尿病の治療で両足を切断された患者さんを担当することになります。その姿に驚くと共に、初日から「死にたい」とばかり繰り返す患者さんに戸惑います。看護師さんから「気持ちを否定したらあかんよ。まず受け入れることが大切だから…」と助言をもらい、翌日から自分なりに、「どうしてそう思うのですか?」「死にたいほど辛いんですね」と、一生懸命気持ちを理解しようと努力しました。
少しずつ「死にたい」という言葉が少なくなり、2週間目からはリハビリをされるようになりました。拙い自分の看護で変化していった患者さんの姿を目の当たりにし、今まで感じたことがなかった気持ちが湧いてきたそうです。今、「生きる希望を与えられるような看護師になりたい」という思いで、彼女は頑張っています。
もう一人は、看護師を目指す気持ちの強さが変わったBさんの話です。彼女は、『成人看護実習』で、寝たきりの男性を担当しました。無意識に点滴を外すため、「ミトン」という医療用手袋を常用しなければならない方でした。それがとても辛そうで、彼女はできるだけ傍で見守り、ミトンを外せる時間を増やす努力を続けました。実習の最終日、「あなたに看てもらえてよかったです」と言われた時は感動したそうです。
そして、実習から半年が経ったある日、学校に電話がかかってきました。患者さんの奥さんからでした。「主人は2ヶ月後に亡くなりました。入院してあなたに看護してもらっていた時が、主人は一番生き生きとしていました。そのお礼をひとこと言いたくて、でも、連絡の取り方がわからず、今日になってしまいました。本当にありがとうございました」 彼女は、患者さんが亡くなったことと、自分を必要としてもらっていたことへ驚きが入りまじって、涙でグシャグシャになりました。今、「絶対に看護師になる!」という気持ちを持って、国家試験の受験勉強と向き合っています。
臨地実習での学びは確かに大変厳しいですが、皆さんを一回りも二回りも成長させてくれるでしょう。看護師という職業の 崇高な使命を自覚し、患者さんやそのご家族から信頼される看護師となるために、知識、技術、そして人間性を磨いていってください。
さて、『人間教育』を建学の精神とする本校は、人の「命と尊厳」を何よりも大切にできる人間を育てたいと考えています。今、世界を見渡すと、戦争で多くの命が奪われいます。攻撃が始まってから1年、パレスチナでは4万2000人を超える人々が犠牲になり、毎日、平均30人以上の子どもたちが亡くなっています。
ガザの子どもの健康がどのような状態にあるか、みなさん、学んできた知識を基に考えてみてください。 いつ爆撃で死ぬかわからない恐怖と目の前で大切な人を失ったショックが、子どもたちのメンタルヘルスに深刻な影響を及ぼしています。ガザでは、震え、かんしゃく、夜尿症、睡眠障害、悪夢、失語症、うつ病、自傷行為などの精神疾患を抱える子どもたちが激増しています。また、食料や清潔な水、衛生用品、医薬品の不足は、栄養失調や発疹、A型肝炎、下痢、呼吸器系の病気を引き起こしています。にもかかわらず、機能している病院は半数以下です。
国際赤十字は、「人道の敵」として4つの要素を挙げています。「利己的な心」「認識不足」「想像力の欠如」、そしてもう一つは「無関心」です。命と向き合う看護師を目指すみなさん、私たちに何ができるのか一緒に考えていきましょう。
看護師への道のりは決して平坦ではありませんが、ここにいる仲間と支え合い、励まし合いながら、一緒に乗り越えていってください。私たち教職員も共に歩んでいく覚悟です。
保護者の皆様、実習を伴う看護学生は大きなストレスを抱えます。引き続きお子様に寄り添い、充実した高校生活を送れるよう、ご支援をお願いいたします。最後になりますが、ご来賓の皆様、本日はご多用の中、ご臨席賜りましたことを心より感謝申し上げますと共に、まだまだ未熟な生徒たちへの温かいご指導とご鞭撻を賜りますよう、お願い申し上げ、式辞とさせていただきます。
2024年10月26日
大阪暁光高等学校 校長 谷山全