秋の訪れとともに、草木が色づき、命をつなぐ実りの季節がやってきました。
このよき日に、ご来賓の皆様、そして保護者の皆様にご臨席賜り、第10回戴帽式を挙行できますことは大きな喜びです。保護者の皆様におかれましては「戴帽」という特別な日を迎え、感慨もひとしおと存じます。これから、患者さん一人ひとりと深く関わっていく戴帽生の皆さんに、一言励ましの言葉を贈ります。
さきほど4名の代表者によって朗読された「決意」に深い感銘を覚えました。戴帽式は「近代看護教育の母」と呼ばれるフローレンス・ナイチンゲールの精神を受け継ぐ場です。身分の別なく負傷兵の看護を続けたナイチンゲールに学び、自らを問い直すのが戴帽式です。不安や葛藤を抱きながらも努力を重ね、看護の喜びを発見してこられたみなさんが、看護師へのさらなる歩みをはじめる姿にこころが熱くなりました。
一昨年、巣立っていった卒業生は、修了式の答辞で次のような言葉を残しています。
「5年間の実習で、ほんとにたくさんの方との出会いがあった。意識のない患者さん、精神疾患を抱える患者さん、『もう死にたい』と泣かれたおばあちゃん、自分の人生に満足し、『笑顔で死ねるわ』と語られたおじいちゃん…。一人ひとりに歩んでこられた人生があり、その人だからこそ言える大切な言葉や思いに触れることができた。これらの体験は私にとってかけがえのない宝物です。実習の最後に『ありがとう。あなたに出会えてよかった』と言ってもらえた時は、感動して、患者さんのために最善を尽くして関われたことに誇りを感じた」
臨地実習での学びは困難もあるでしょうが、皆さんを一回りも二回りも成長させてくれることでしょう。看護師という職業の崇高な使命を自覚し、患者さんとその家族に信頼される看護師になれるよう、知識、技術、そして人間性を磨いていってください。
さて、世界を見渡しますと、戦争によって命が無情に奪われていく現実に心が痛みます。中東のパレスチナ・ガザ地区では、イスラエルの封鎖によって治療に必要なあらゆるものが底を突き、医療が崩壊の瀬戸際に立たされています。病院は負傷者で溢れ、医師や看護師は廊下や中庭で治療に当たっています。医薬品が届かず、麻酔なしで手術が続けられています。電気が止まり、非常用の電機機の燃料は間もなく底をつきます。それは保育器の中にいる生を受けたばかりの赤ちゃんの死を意味します。
罪のない市民の命が奪われているこれらの現実は、2組の皆さんが文化祭で学ばれた国際赤十字が掲げる「人道」の理念に反するものです。国際赤十字は、「人道の敵」として、「利己的な心」「認識不足」「想像力の欠如」、そして「無関心」を上げています。文化祭のパンフレットに「人道の敵は、私の中に潜んでいると思う」と振り返っている人がいました。命と向き合う看護師を目指すみなさんとともに、何が私たちにできるかを考えていきたいと思います。
看護師への道のりは決して平坦ではありませんが、ここにいる仲間と支え合い励まし合いながら、困難を乗り越えていってください。私たち教職員も共に歩んでいく覚悟です。
実習を伴う看護学生には、大きなストレスがかかります。保護者の皆様には、引き続きお子様に寄り添い、高校生活が一層充実したものになりますようご支援をお願いいたします。最後になりますが、ご来賓の皆様、本日はご多用の中、ご臨席いただき、心より感謝申し上げますと共に、まだまだ未熟な生徒たちへの温かいご指導とご鞭撻を賜りますようお願い申し上げ、式辞とさせていただきます。
2023年10月28日
大阪暁光高等学校 校長 谷山全